小説のまる写し

表題とおり、いわゆる「写経」の小説版です。もちろん、このご時世なので手書きじゃなくても大丈夫ですが(しかし、おそらく手書きのほうが効果は高いです)、私が一番最初に取り組んだ学習方法はこれでした。

ただし、好きな作家の小説はすべて読んでいてください。難しければ、せめて8割。もちろん、小説に限らなくてもいいです。ライター、エッセイストなど、物書き業はいろいろありますが、とにかくこの人の文章が好き、という物書きを見つけたら、その人の書いたものをなるべくでいいのですべて読む。これが大前提です。

最初のまる写しは、その憧れの人の作品のなかから、一番好きなものを選んでください。あとはただ、まる写しするだけです。ただひたすら、書く。

これはなにが役立つかというと、好きな物書きというのは、自分と相性がいいんです。文章から伝わる間の取り方、言葉の選び方、句読点におけるテンポ感、文章の構成、起伏、ジャンル、キャラクターの動き、などが自分の感覚(センス)と一致しているということ。なかでも一番好きな作品は、その融合度合いが高いものになるので、吸収しやすいです。

しかし一致しているからといって、一朝一夕では書けません。その一致した部分を持ちながら非常に高い技術力を駆使し、作品として成り立たせているのが「優れたプロ」なんです。小さい頃に好きな漫画のキャラクターをノートに透かして、上からなぞって描いたりしませんでしたか? まさに、アレと同じことをしようというのが最初の目論見でした。ですからここでは、そのテクニックを自分の体に染み込ませることが目的となります。

やってみるとわかりますが、優れたプロの作家というのは無駄な文章が一切ないんです。たとえば、とある作家であれば、「私」という主語が極力、削られていたりする。だからリズムよく読めるんですね(逆に、敢えて入れることでキャラ性を出すパターンもありますが)。文章はついつい不要なことをたくさん書いてしまいがちです。ですが文章こそシンプルイズベスト。ここを目指していきましょう。

私がひたすらまる写しをしたのは宮部みゆきです。感性が一致しているなどと、言ってしまうのもおこがましいほどの天才作家ですが、彼女が描く心を震わせるセリフだったり、ストーリー展開やキャラクター設定など、電車を乗り過ごすほどに好きです。ですからいまも、たまにやります。宮部みゆきの小説に出会ってから20年以上経ちますが、当然その20年の間に宮部みゆきも進化しているので、またそのテクニックを研究するために挑み続けています。お察しの通りまったく敵いっこないのですが、それでも、おかげさまで私も少しずつ変化(進化)していくことができていると自負しています。

好きなドラマを文章にしてみる

ドラマのノベライズ化ってありますよね。ああいうことなんですが、作品にするわけじゃなく練習用なので、展開もセリフもカットせず、そのまま忠実にやります。

私の世界一好きなドラマは「古畑任三郎」です。円盤ボックスを持っているので字幕を出しながら数秒で止めて、書いて、また再生して、止めて、書いて、をやっていました。

オープニングの3秒程度でも書くことはたくさんあります。風景描写や心理描写、映像となっている部分、あるいはキャラクターの表情などをよーく観察しながら書いていきます。

これは目に見えるものをどう言語化するのか、ということに役立ちます。好きな作品を選ぶのは、飽きをこさせないため、楽しみながら練習するためです。好きなドラマを自己流で書いていくことで、そのドラマへの理解度も深まり、所見ではまったく気づけなかったキャラクターの心の機微や、こだわりのディテールなどが見えはじめたりします。

こうした練習で、いろんな角度から物事を見ることができるようになります。結果的に視野の広さ、着眼点の切り替えなどにより、アイデアの引き出しが蓄積されていくという部分でも役立っています。

未知のジャンル本に触れる

具体的にお伝えします。

まずは本屋に行きます。そしてまっすぐ、一直線に歩いてみる。いずれどこかの本棚にぶつかります。学習ドリル系やレシピ本などの棚であれば、別の場所を目指してください。重要なのは、自分がいつも行くような本棚以外の場所へめがけて進むこと。そこで目についた書籍を手に取り、思いきって購入します。

自分にとって未知のジャンルになるので、おそらくですが、その分野の概念や哲学、史実やルポライティングなどの書籍を手にすることが多くなると思います。ですが、わざわざそれらを選ぶ必要はありません。ペラっとめくって「読めそう」と思えばOKです。

未知のジャンルを知ることは、アイデアの引き出しを増やしていくことができます。たとえば、私が出会ったなかで一番印象に残っているのが、深澤直人の「デザインの輪郭」です。著者は無印良品などのデザインを手掛けている世界的に有名なデザイナーですが、彼のデザイン観には目から鱗の連続でした。文章は書けても絵やデザインはてんで描けない私にとって、非常に新鮮な発見を与えてくれたのです。

ほかにも、ニュートンムックの「相対性理論」。勉強が得意ではないので中盤からは苦行になりましたが、ちゃんと理解できれば相当に面白い書籍だと思います。こちらはSF作品分野の勉強になりましたし、この本をきっかけにシュレディンガーの猫など、さまざまな科学分野を調べることにつながりました。

いかがでしたでしょうか。私が実践してきたスキルアップの方法は、決して気楽にトライできるものではありませんが、その過程で得られる充実感や成長においては非常に楽しめると思います。どのアプローチが自分に合うか試してみて、進化に挑んでくださいね!

この記事を書いたライター

執筆者

立石

本業ではゲーム制作のシナリオ・音声収録のディレクションをしつつ、副業ではSEO対策記事、CM脚本、占い鑑定書の執筆など幅広く活動中。ひと仕事を終えた後のお酒は格別。エンタメ関係のお仕事にも挑戦していきたい!

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