やる気と不安のはざまで悶々とした35歳

やる気と不安のはざまで悶々とした35歳

2013年、35歳で旅行ガイドブックの編集プロダクションに正社員として入社しました。それが私の編集者・ライターとしての第一歩でした。

それまでの仕事の経歴は、印刷会社の営業を正社員で6年、退職後に司法書士事務所の仕事をパートで3年ほど。その時の自分の状況でできる仕事として選んでいたので、大きな不満はないものの、不完全燃焼感を拭せず、ずっとやりたいと思っていた編集(みたいな)仕事をしたい!と悶々と考えるように。

なぜ悶々としていたかというと、その時の自分の年齢に、謎に焦りを感じていたからです。

今でこそ「35歳はまだまだ何でもできるよね!」と思いますが、当時の私は「35歳で正社員の転職は厳しい」と思い込んでいました。正社員として会社に就職して編集の経験を積むなら、今がラストチャンスだぐらいに崖っぷちな気分でした。

「35歳 転職 難しい」と検索しまくり、ヒットした記事を読んでは真に受けて猛烈に不安になったり、私だってまだまだできるぞ!と俄然やる気になったり、気持ちの乱高下が激しかったです。まさに春の嵐。

挑戦しようとする前は、心乱れるもの…ですよね?

ガイドブックの編集、なんだか楽しそう。だけで応募

やる気と不安のはざまで悶々とした35歳

「編集の仕事をしてみたい」という漠然としながらも強い想いは、本や雑誌、文章が好きということのほかに、20代で印刷会社の営業をした経験があったからです。

印刷会社は、校了データをお客様から受け取り印刷をしますが、校了に至る前の工程、企画やデザイン、編集・ライティングはとてもおもしろそうだと気になっていて、いつか、校了前の仕事に関わりたいと思っていました。

求人情報を「未経験 編集」で検索しまくり、多くの求人情報を見始めて、編集の仕事とは実にさまざまであることを知った私ですが、とにかく未経験OKの求人が少ないことに愕然とします。雑誌や専門誌の編集者の求人は経験者募集が多く、今のようにWebメディアの編集の求人もありませんでした。

そんななか、ハローワークで「旅行ガイドブックの編集者募集、未経験可」の求人情報を発見。

旅行でお世話になるガイドブックは、どんな風に作っているんだろう、なんだか楽しそう!「通勤に2時間以上かかる」「年齢は35歳まで」などの無理そうな要素を無視してとにかく応募面接では体力をアピールしてめでたく採用となったのでした。

入社後に社長から言われた「君の“体力には自信があります”っていうの、決め手になったよ」の意味を身をもって知ることになったのですが…。

「旅行ガイドブックの編集」の仕事は意外と地味

仕事は意外と地味

「旅行ガイドブックの編集」の仕事って、いろいろな観光地に取材に行ったり、ご当地グルメが食べられたり、なんだか楽しそうなイメージがありませんか?私も少なからずそのようなイメージがありました。

でも、編集未経験者ですから、最初から取材を任せてもらうことはないだろうし(それも困るし)書類整理でも雑用でも、なんでもやります!というフレッシュな気持ちで出社初日を迎えたことを今でも覚えています。

私が入社した編集プロダクションは、旅行ガイドブックの版元である出版社から国内・海外の旅行ガイドブックを1冊単位、または、ページ単位で請け負っていました。

版元の編集者は、巻頭特集の素案や大枠の台割(ページ割)を決めていますが、旅行ガイドブックの中身をつくっているのは、編集プロダクションという場合が多いのです。以下のような仕事を版元に確認をとりながら進めていきます。

  • 特集ページの企画
  • ページ構成の提案
  • 各ページのラフ作成
  • 掲載する観光地・店舗などのリストアップ
  • 取材スケジュール作成・取材アポ取り
  • 取材
  • 取材しない掲載物件の掲載許可連絡
  • ページごとの素材整理・ライティング
  • デザイナーへデザイン依頼
  • カンプの確認、掲載物件への確認
  • カンプの修正・校正作業
  • 校閲後の事実確認作業
  • 印刷所への入稿用カンプのまとめ

「取材」は仕事のほんの一部で、ほとんどが事務所でのデスクワーク。地味、かつ、大量の同じ作業の繰り返しが多いのです。そして、校了日までのスケジュールに追われまくり、体力・精神力ともに削られます。

上記のような旅行ガイドブック編集の仕事の全貌が見えてきたのも、入社後1年ほど経ってから。新人のうちはピンポイントに仕事を任されるので、とにかく言われたことをひたすらやる、ということからスタートしました。

思っていたのとだいぶ違った初仕事

初仕事

「編集の仕事ができる!」とウキウキしていた私に与えられた仕事は、予想外のものでした。もちろん、今までに経験したことがなくても「はい、わかりました!」とやるしかありません。

単純作業の繰り返しではありましたが、編集者として、ライターとして仕事するうえでの基本があったと今は思います。

水着のキャプションを書きまくる

入社初日に私に与えられた仕事は、大量の水着写真を眺めながら、水着のキャプションを30〜40文字程度で書きまくる、です。

私が入社したタイミングは、ちょうどグアムのガイドブックの取材の直後で、事務所は写真選びと原稿作成にてんてこ舞いな状況でした。ショッピング特集ページに大量に掲載する水着は100点を超えていたと思います。その8割は女性用のビキニでした。

胸元のフリルがキュート。ボトムはショートパンツ風でタウンユースもOK 60ドル

トロピカルな気分が盛り上がるハイビスカス柄でリゾート気分満点 75ドル


といった感じのキャプションを100本近く書くわけです。さすがに表現が似通ってくるわけですが、同ページに似たような表現はNG。あれこれと表現やリズムを駆使して書きまくります。

水着の色や柄、形について、キュート、セクシー、ポップなどの印象について、身につけやすいとか使いやすいなどの用法について、言葉を駆使してアレンジする表現力が養われました

始業から終業まで書きまくるこの仕事が3日続いた後、次はグアムみやげのキャプション80点分。単純作業でしたが楽しくて1日があっという間に過ぎました。

温泉施設に電話をかけまくる

1か月間は、キャプションを書くなどの仕事を黙々としていましたが、次に、電話をかけまくる仕事も担当になります

全国の温泉施設を紹介する情報誌の改訂作業をする仕事です。200か所以上の温泉施設が掲載されていたと思います。ガイドブック全ページのコピーをとり、エリアごとに担当者を分けて、掲載しているすべての温泉施設に電話をかけます。

  • 電話番号が間違いないか、通じるか
  • 継続して掲載してもよいか
  • 掲載内容に変更がないか
  • クーポンに協力してもらえるか

などなど、温泉施設の担当者に確認しなくてはならないことは多数あります。

私はカスタマーセンターの電話受付のアルバイト経験があったので、知らない人と電話で話すことに抵抗はありませんでした。それにしても、1日に何十件も、忙しい営業の合間にお願いの電話をしなければならないのは、かなりのエネルギーを使いました

まずは、先輩社員が温泉施設に電話している会話の内容を聞いて、同じように話してみます。しかし、要領が悪くて相手がイライラしたり、電話を切ってから聞き忘れがあったり、1件の電話を済ませるにも労力がかかります

電話の相手も優しい人ばかりではないので、邪険に扱われることも、面倒そうにたらい回しにされることも多く、かなり電話力と忍耐力を鍛えることができました

相手の立場や雰囲気、忙しさを電話での会話を通して読み取り、相手に合わせて自分の話し方や質問する順番を変えるのです。時に丁寧に、時にはフランクに。繰り返すと感覚がつかめてきます。

また、当たり前のことなのですが、相手に伝えたことは実行する大切さも学びました

「13時ごろかけ直します」と伝えたらその時間にかけ直す。

「掲載内容をファックスで送って欲しい」と要望されたら、必ずファックスを送る。

質問されてその場でわからなければ、調べて折り返し電話して回答する

忘れてしまって、数日後に電話して温泉施設の担当者に怒られたことが何度もありました。

編集側としては100件以上の施設に電話をかけて、上記のようなことが何回も繰り返されるのですが、電話に出た相手にとっては一度の要件。最初はとにかく電話をかけ続けることに精一杯で、それを意識できるようになるまでには時間がかかりました。

「自分を信じる」ってこういうことか!と初めて思えた

自分を信じる

あとでその編集プロダクションの社長から聞いた話ですが、前述のこうした地道な仕事に嫌気がさして辞めてしまう人が多いそうです

確かに、一定期間同じことを繰り返すような仕事が続き、数も膨大なので、嫌になってしまう気持ちもわかります。私も「これを続けて編集者になれるの…?」と疑問に思うこともありました。

でも、実はこの地道な仕事の繰り返しこそが、編集者の仕事そのものなのです。

ガイドブックを買ってくれる人は、楽しい旅の提案がウキウキする言葉でたくさん紹介されていて、旅に必要な情報が正確に掲載されていることを求めています。それを叶えるには、地道なプロセスは不可欠なんです。そんな想いに至るまでには年月を要しました。

とにかく始めはやったことがあろうがなかろうが、自分のこれまでの経験を活かしてやってみる、「できるようになれる」と自分を信じてみる。仕事が地道すぎて、こんなことで編集者になれるのかな?思いながらも続けたことは、すべて今の編集者としての仕事につながっています

「自分を信じる」って腑に落ちない言葉だったのですが、無我夢中で取り組んでいたときに、「あ、この感覚なのかも」とはっきりと意識できた35歳の春でした。

誰だって最初は未経験者である

誰だって最初は未経験者である

誰だって最初は未経験者、初めの一歩は不安です。それでも、無理、無駄、面倒、そんなマイナス要素を跳ね除ける挑戦者でありたいな、と思います。

そして、時には自分を鼓舞しながら、時には自分を愛でて褒めちぎりまくるのも忘れずに、小さな挑戦を重ねていきたいです。

あらためて、今回、私が編集者に挑戦したことを振り返ったのは、何か始まりそうな4月の雰囲気に影響されただけではなく、Mojiギルドの特集「ライターの初仕事」の記事を読んでいたから

ライターの登録面談で、この「ライターの初仕事」のシリーズ記事を読んで、ライターになる勇気が出たと話してくださったMojiギルドライターさんもいらっしゃいます。

ライターになってみたい、初めてライターの仕事に挑戦する、一人ひとりの未経験者時代の挑戦と奮闘と勢いに、今の私も背中を押してもらえました。ぜひ読んでみてくださいね!


ライターの初仕事

この記事を書いたライター

執筆者

坂本 緑

旅行ガイドブックの編集・ライター、コピーライターを経て、フリーライターに。現在は、Webメディアの編集・記事執筆のほか、コピーライターとしてWeb・紙媒体問わず広告制作に携わる。一番好きなのは出会いがある取材とインタビュー。Mojiギル...

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