なぜポリコレを意識しなきゃいけないの?
まず、ポリコレを意識すべき理由としては、主に以下の3点が挙げられます。
1. 差別や偏見を防ぐため
2. 多様性を尊重するため
3. コミュニケーションを円滑にするため
1. 差別や偏見を防ぐため
ポリコレは、人種、性別、性的指向、宗教、障害など、さまざまな属性に基づく差別や偏見を防ぐための言葉遣いや行動を指します。
差別や偏見は、個人や集団を傷つけ、社会の分断を生み出す可能性があるため、ポリコレを意識することで、差別や偏見をなくし、誰もが安心して過ごせる社会を目指すことができます。
2. 多様性を尊重するため
現代社会は、ますます多様化しています。異なる属性を持つ人々が共存するためには、互いを尊重し、理解することが重要です。ポリコレを意識することで、多様性を尊重し、誰もが自分らしく生きられる社会を目指すことができます。
3. コミュニケーションを円滑にするため
差別的な発言や偏見に基づいた表現は、相手を不快にさせ、コミュニケーションを妨げる可能性があります。
ポリコレを意識することで、相手に配慮した言葉遣いや表現ができ、円滑なコミュニケーションの実現につながります。
一方で、ポリコレは表現の自由を制限したり、過剰な配慮が行き過ぎて本来の議論から遠ざかったりといった批判が上がることもしばしば。
実際、ポリコレには明確な定義や範囲はなく、どのように捉えるか、どの程度まで配慮をするかは、それぞれの判断に委ねられます。
しかし、無自覚に人を傷つけないためにも、どういった表現がポリコレに反するかは最低限知っておいて損はないでしょう。
情報発信する際に気をつけたい表現<前編>
ここでは、いわゆる「ポリコレに反する」とされる表現について紹介していきます。
昔は一般的に使用されていた表現が、現代では避けるべき表現となっていることもあるので、ぜひ最後までご覧ください。
ただし、先にも言いましたが、ポリコレには明確な定義や範囲はないため、あくまでも「気をつけたい表現」としてお読みいただければ幸いです。
- 職業にまつわる表現
- 人種や民族に関する表現
- 障害に関する表現
- 年齢に関する表現
職業にまつわる表現
職業にまつわる表現は、主に「性別」を制限してしまうという理由から呼称が変化している場合がほとんどです。
従来当たり前に使用していた表現が、現代では差別表現として捉えられてしまう可能性もあるので、注意しましょう。
<看護婦→看護師>
昔は女性看護師のことを「看護婦」、男性看護師のことを「看護士」と呼ぶことが一般的でした。
しかし、2001年の法改正で「保健婦助産婦看護婦法」から「保健師助産師看護師法」に名称が変更されたことにより、翌年2002年に性別による呼び方の区別が撤廃され、男女ともに「看護師」と統一されるようになりました。 看護”婦”と表現してしまうと、性別を限定してしまうことになるので、看護”師”という表現を用いましょう。
<スチュワーデス→客室乗務員、キャビンアテンダント、CA、フライトアテンダントなど>
意外かもしれませんが、実は「スチュワーデス」は性別を限定する英単語なんです。
男性客室乗務員の総称である「スチュワード(steward)」の女性形が「スチュワーデス(stewardess)」です。 1970年代頃、スチュワーデスという表現が、「客室乗務員は女性が行う仕事」という固定観念を広めてしまうとして、公の場では別の名称が使われるようになりました。
現在では「客室乗務員」「キャビンアテンダント・CA(cabin attendant)」「フライトアテンダント(flight attendant)」など複数の呼称が存在します。 最近では、「キャビンクルー(cabin crew)」「キャビンスタッフ(cabin staff)」といった呼び方も使われるようになりました。これらの表現は、「アテンダント(attendant)」は「世話をする人」という意味なので、乗務員チーム(crew、staff)の一員であることを強調しようという考えの下、使われることがあります。
<保母→保育士>
1999年に児童福祉法施行令が改正されるまでは、一般的に「保母」という表現が使われていましたが、現在は保育園や託児所で働く有資格者は「保育士」と呼ばれています。
1999年に施行された「男女共同参画社会基本法」の影響などもあり、男性職員が増え「保父さん」「保母さん」という表現が浸透しましたが、最終的に性別にとらわれない「保育士」という名前に改称されました。
同様に、以前は「助産婦」という表現が使われていましたが、こちらも「助産師」とするのが好ましいでしょう。
<キーマン→キーパーソン>
英語の職業名には、「男性」を意味する「man」を含む表現が多くあり、これらを男女共通である「person」に置き換える新たな呼び方が定着してきています。この流れは日本にも広がりつつあるものの、「〜マン」という言い方がすでに浸透していることもあり、「〜パーソン」という表現の使用頻度はまだまだ低い傾向にあります。
例えば、重要人物を指す「キーマン」。この言葉は性別を限定してしまうため、「キーパーソン」のように表現するのが望ましいです。
他にも、日本由来の言葉だと「商社マン」「営業マン」といった表現がありますが、「商社パーソン」「商社勤務」「営業パーソン」のように言い換えるのが良いでしょう。
他にも性別を限定する職業名および言い換え表現としては以下のようなものがあります。
従来の表現 | 言い換え表現 |
---|---|
・サラリーマン(salaryman) | ・ビジネスパーソン(businessperson) ・オフィスワーカー(office worker) ・フルタイムワーカー(fulltime worker) |
・ビジネスマン(businessman) | ・ビジネスパーソン(businessperson |
・セールスマン(salesman) | ・販売員(salesperson) |
・ウェイター(waiter) ・ウェイトレス(waitress) | ・ホールスタッフ(hall staff) ・フロアスタッフ(floor staff) |
・ホテルマン(hotel man) | ・ホテルワーカー(hotel worker) ・コンシェルジュ(concierge) |
・ドアマン(doorman) | ・ドアキーパー(doorkeeper) |
・女中 ・メイド(maid) | ・お手伝い ・ハウスクリーナー(house cleaner) |
・ポリスマン[警察官](police man) | ・ポリスオフィサー(police officer) |
・チェアマン[議長](chairman) | ・チェアパーソン(chairperson) |
・カメラマン[写真家] | ・フォトグラファー(photographer) |
・スポーツマン(sportsman) | ・アスリート(athlete) |
・女優(actress) | ・俳優(actor) ※性別を問わず使える表現 |
従来の表現の方が口馴染みが良いという言葉もあるかもしれませんが、意識的にフラットな表現を使っていくことで、徐々に浸透させていけると良いですね。
※参照:英語の中の「性(ジェンダー)に配慮した言い換え表現」一覧(Weblio 英会話コラム)
※参照:英語の「man」と日本語の「マン」 原田邦博(日本語ジェンダー学会 第17回年次大会 研究発表 2017)
人種や民族に関する表現
日本は比較的単一民族の国と見なされがちですが、実際には多様な民族や文化が共存しています。外国人労働者、留学生、在日コリアン、アイヌ人など、さまざまなバックグラウンドを持つ人々がいます。
しかし、日常会話の中で無意識に使われる差別的な表現により、知らず知らずのうちにこれらの方々に不快感を与えてしまうことも少なくありません。
実例を交えて説明していきます。
<「がいこくじん」の一括り>
「外国人」という言葉自体が差別的であるわけではありませんが、時に「彼らは違う」という意味で一括りにして使用されることも少なくありません。このような使用法は、個人の多様性や独自性を無視し、外国人を「他者」として扱うことにつながります。
話している対象が特定の国籍や民族である場合は、その国籍や民族名を明確にすることで、一括りにすることなく尊重を示すことができます。
また、外国人と同じ意味で使われる「外人」という表現。「外の“国”の人」を意味する外国人に対して、外人には「外の人」「よそもの」といったニュアンスが意図せず含まれてしまうことがあります。
そのため、可能な限り使用を避け、「外国人」「外国の人(方)」といった表現を使うのが良いでしょう。
<ステレオタイプに基づくジョーク>
特定の民族や国籍に関するステレオタイプ(例:「日本人は時間を守る」、「ブラジル人はパーティーが好き」など)に基づくジョークは、そのグループに属する個人を不快にさせる可能性があります。
どこまで配慮すべきかは、コミュニケーション相手との関係性やシチュエーションにもよりますが、特定の誰かが傷つく可能性のある冗談は避け、個人を尊重したユーモアの形を意識すべきでしょう。
<肌色という表現>
「肌色」という表現を避けるべき理由は、特定の肌の色を「正常」または「標準」とみなし、特定の人種や民族に基づいた限定的な視点を反映しているためです。
一般的に、「肌色」と表現されるとき、それはしばしば明るい肌の色を指すことが多く、これは特定の人種的背景を持つ人々の肌の色を「標準」として暗黙のうちに設定しています。
日本語で「肌色」と表現する際は、日本の慣用色で、日本人の一般的な肌の色を前提にすることが多いでしょう。これにより、多くの人々が自分たちの肌の色が「普通」ではないと感じる原因になり、社会的な排他感を生み出す可能性があります。
肌の色は個人によって異なるため、「薄橙(うすだいだい)」「ペールオレンジ」「ベージュ」といった表現を使うのが望ましいでしょう。ちなみに、三菱鉛筆では、2000年9月の生産から「はだいろ」の呼称を「うすだいだい」に変更しています。
※参照:はだいろがなくなった|よくあるご質問(三菱鉛筆株式会社)
他にも、化粧品の効果としてよく使われる「美白」といった表現は、「明るい肌色」を暗黙のうちに「標準」とみなす表現と捉えられることも。そのため、肌の印象を明るくすることを意味する「トーンアップ」のように言い換えるのが好ましい場合があります。
障害に関する表現
障害に関する表現は、社会における障害を持つ人々の認識や扱いに直接的な影響を与えるため、尊重と配慮をもって選ぶべきでしょう。
障害の“害”という字を避けて「障“がい”」のように表現されることがありますが、これも配慮の一つです。ただし、過剰に配慮することがかえって「差別的」となる場合もあるので、状況に応じて柔軟に対応することが重要となります。
<障害に関する差別的なラベル>
障害に関する言及では、特に言葉遣いが人々の尊厳に与える影響に注意を払う必要があります。
例えば、「障害者」や「身体障害者」などのラベルを不適切に使用することは、障害を持つ人々をその障害によって定義することになり、個人の独自性や人間としての価値を無視することになりかねません。
また、当然ながら障害の有無がわからない人に対して、むやみやたらと「障害者」という呼称をある種ニックネームのように使用することも、人間の尊厳を踏みにじる行為と言えるでしょう。
リスペクトの気持ちを示すために、「障害を持つ人」や「障害がある人」という人第一の言語を使用する方法があります。人第一の言語とは、「障害を持つ人々をまず人として認識し、その後に障害を一つの特徴として扱う」という意味です。
このような表現は、障害を持つ人々を障害によって定義するのではなく、個人として認識しているという視点を反映しています。
<障害を持つ人々を哀れむ表現>
「かわいそうな」「不幸な」といった障害を持つ人々を哀れむような言葉は、障害を持つ人々が自分の状況に満足していないか、通常の生活を送ることができないという前提に基づいています。
しかし、障害を持つ多くの人々は、自分たちの生活に対して肯定的な見方を持ち、障害があるにも関わらず、または障害を含めて、充実した人生を送っています。哀れみに基づく表現は、それらの人々を一律に弱い立場に置くことになりかねません。
障害がある人々もまた、自分たちの人生に対して主体的な役割を果たしており、その事実を尊重することが重要です。
<障害を持つ人々を英雄化する表現>
「障害があるにも関わらず成功できた」といった、障害を持つ人々を不当に英雄化する表現は、障害が必然的に成功を妨げるものであるかのような前提に基づいています。
これらの表現は、障害を持つ人々の成功を、普通の努力や才能の結果ではなく、例外的な事態として描くことにつながる可能性があります。障害を持つ人々の成就や挑戦を扱う際には、当該者の人間性と個々の努力を尊重し、不当に英雄化せずにその実績を正当に評価することが重要です。
障害がある人々もまた、自分自身の能力と努力によって目標を達成していることを認識し、日々の挑戦と成功を尊重する視点からアプローチするべきでしょう。これにより、障害に対する理解を促進し、障害を持つ人々への平等な扱いを支援することにもつながります。
どのようなシチュエーションにおいても、障害や障害のある方について言及する際は、「差別」と「区別」の線引きに注意が必要です。
自分では「区別」だと思っていても、当該者からすると「差別」と受け取られる場合もあるので、リスペクトの気持ちを持って、表現には十分配慮しましょう。
年齢に関する表現
年齢に関する表現では、年齢に基づくステレオタイプや偏見の助長をなるべく防ぐよう意識するのが良いでしょう。年齢はあくまでも個人の一側面に過ぎず、年齢に基づいた一般化は不当な差別や誤解を生む原因となります。
<年齢に基づくステレオタイプを反映する表現>
「年寄りは頑固だ」「若者は無責任だ」などの表現は、特定の年齢層に属する個人全員が同じ性質や特徴を持つという誤った前提に基づいています。
年齢に関わらず、すべての人は独自の性格、経験、能力を持ち、当然ながら年齢だけで個人の行動や性質を決定づけることはできません。
このようなステレオタイプは、年齢に基づく偏見を助長する可能性があるので、避けるのが良いでしょう。 年齢差別をなくし、異なる世代間の理解と協力を促進することが、より良い社会を作ることにもつながります。
<年齢を負の形容詞として使用する>
「老いぼれ」「ガキ」といった、年齢を負の意味合いで使用する表現は、年齢に基づくネガティブなステレオタイプを強化する恐れがあります。
このような表現は、特定の年齢層の人々を不当に劣ったものと見なし、彼らに対する社会的な見方を歪めることになりかねません。すべての年齢層の個人が社会に貢献する能力を持っています。あらゆる人々の尊厳と能力を尊重する表現を心がけましょう。
<年齢に基づく期待を押し付ける表現>
「その年で結婚していないの」や「若いうちに楽しんでおけ」といった表現は、社会が個人に対して持つ特定の期待を反映しています。これらの言葉は、人々がある特定の年齢に達した時に、結婚や特定のライフスタイルを楽しむことが「普通」であるという見解を示しています。
しかし、本来人生の選択は多様であり、それぞれが自分にとって最適な道を見つられる状態が「普通」と言えるのではないでしょうか。年齢に対するステレオタイプな考え方や、個人の価値観を他者に押し付けないことで、多様性を尊重し、リスペクトの姿勢を示すことができるでしょう。
<「若さ」を理想とする表現>
「永遠の若さを保つ」「アンチエイジング」のような、若さを過剰に理想化する表現は、年齢を重ねることの自然さや価値を軽視していると捉えられることがあります。
時としてこれらの表現は、若さだけが望ましい状態であり、年齢を重ねることが避けるべきものであるかのような意図を孕み、社会における年齢に関する負のイメージを強化しかねません。若さを「正」とするか否かは、あくまでも個人の価値観に委ねられるので、他者に押し付けないことが大切です。
年齢は単なる数字であり、個人の価値や能力、人生の選択を決定づけるものではありません。
年齢を重ねることは、経験を積み、知恵を蓄えていく自然な過程です。それぞれのライフステージの価値を尊重する姿勢を持つことで、他者を不用意に傷つけないだけでなく、自分の人生の豊かさを増すことにもつながるでしょう。
後編では宗教・性別・その他注意すべき表現について解説
前編の今回は、ポリコレを意識する重要性と職業や人種にまつわる表現など、情報発信の際に留意すべき言葉について紹介してきました。
後編では、宗教・性別・その他注意すべき表現について紹介していきます。また、最終的にどのようにポリコレを意識すべきかについてもまとめていきます。前編でポリコレに興味を持っていただいた方やより詳しく知りたいと思った方は、ぜひ後編もご覧いただけると嬉しいです。
言葉は「生もの」ということもあり、今後も新しい表現が生まれたり、本記事で紹介した現在使用している表現が不適切となることもあるでしょう。しかし、最終的には「不用意に人を傷つけないために言葉が常にアップデートしている」という点を忘れなければ、新しい言葉が出てきた時にも順応できます。
末筆ながら、本記事の前編後編を通して、「ポリコレ」という概念を一人でも多くの人が意識するきっかけになることを願っています。
この記事を書いたライター
Haruka Matsunaga
おしゃべりが止まらない5か国語話者ライター。二次元にも三次元にも推しがとにかく多すぎるオタク。素敵なものや自分の好きなものをとにかくたくさんの人に広めたいという気持ちが執筆のモチベーションです。ペンは剣より強し、言葉の力を信じて...