10kmマラソン完走後に見た景色は…

10kmマラソン完走後に見た景色は…

自分に関わるすべての人の顔色を伺いながら毎日を過ごす、それは学校生活においても同じです。友達に嫌な思いをさせないように、担任の先生に迷惑をかけないように、毎日を過ごしていました。

そして、他人の顔色を伺いながら生きることに対して、深く考えたこともありませんでした。誰に迷惑をかけるわけでもなく、周りが笑顔になってくれるからです。ある意味、自分の中では満足できる生き方だったのでしょう。

そんなある日、体育の授業で10kmマラソンを完走した直後、呼吸ができなくなり気づいたときには病院のベッドの上にいました。先生によれば「10kmを完走後、ゴール地点である校門の前で倒れ込んだ」と言うのです。

当時は走ることに集中しすぎて、呼吸するのを忘れてしまったのだと思っていました。しかし、それはこれまで自分の中にため込んでいた何かが体に現れた初めての経験でした。

体は健康そのもの、でも心は…

体は健康そのもの、でも心は…

体育の授業中に倒れたことをきっかけに、毎日のように呼吸が苦しくなり、病気ではないかと何軒もの内科を受診しました。心電図・血液検査・レントゲン、どの項目でも健康体そのもの。

5件目に受診した病院で「体ではなく、精神的なものからくるパニック障害かもしれない」と診断され、中学生で心療内科の扉を叩くことになりました。

そこで待っていたのは、ピンク色の口紅がかわいらしい女性精神科医。悩みもなく話すこともなかったけれど、どんなことが好きか・学校や家庭ではどのように過ごしているかなど、1時間にわたり聞いてくれました。

中学生だったので親も一緒に心療内科へ付き添ってくれましたが、仕事を休ませてしまって申し訳ないなと思ったのを覚えています。

診断結果は「ストレスによるパニック障害」でした。内服薬を処方され、そこから長い闘いが始まります。

他人の作ったご飯は温かい

他人の作ったご飯は温かい

中学2年生で「パニック障害」と診断されたわたしは、その後も治療を続けましたが「他人の涙を見るのが怖い」という気持ちだけは変わらず、社会へ出てもつねに周りがどう思うかを考えて行動していました。

周りのことを考え、先回りして行動するのは社会人であれば当然のことです。しかし、それは仕事面において必要なソフトスキルであり、対人関係においては別の話でしょう。友人の顔色を伺いながら飲むお酒は、水のように味気のないものでした。

家庭内においても「パートナーや子ども、家族に笑顔でいてほしい」との思いから、イライラすることがあっても受け流し、つねに笑顔でいるよう心がけました。するとある日を堺にして食事が喉をとおらなくなったのです。幸い、液状のヨーグルトだけは飲めたので1か月間ヨーグルトのみで過ごしました。

ヨーグルトは健康によい食べ物ですが、ヨーグルトだけを食べ続けていれば、カロリー不足になります。40kgあった体重は30kgになり家事と仕事の両立がキツく感じ始めた33歳の梅雨、目の前が真っ暗になり体を起こすこともできなくなりました。

それから1週間、入院生活を送ることになります。いまでも覚えているのは「他人が作ったご飯は温かい」という現実。人の優しさは心を回復させてくれる魔法薬であること。病室のベッドの上で泣きながら食べた温かい食事は、生涯忘れることはないでしょう。

嫌われる勇気がなかった…

嫌われる勇気がなかった…

入院をきっかけに「パニック障害の治し方」に関する書籍を何十冊も読みあさり、効果があると言われるものはすべて試しました。たとえば、炭酸飲料を避けたり飲酒を控えたり、ジムに通って体を動かしたり。

内服薬を飲みつつ、自分でもさまざまな対処法を取り入れることで40歳になった頃、ようやく長い闘いに幕を閉じました。

パニック発作が起こることはもうありません。ただ「誰かの涙を見るのは嫌」という考えが変わることもありませんでした。

そんなとき、書店で『嫌われる勇気』を目にしたのです。タイトルに吸い込まれるように書籍を手に取り、レジへ向かいます。

あなたがどんな刹那を送っていようと、たとえあなたを嫌う人がいようと、「他者に貢献するのだ」という導きの星さえ見失わなければ、迷うことはないし、なにをしてもいい。嫌われる人には嫌われ、自由に生きてかまわない。

出典:『嫌われる勇気ー自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎・古賀史健著(株式会社ダイヤモンド社)

この一文を読んだとき「もしかしたら、誰かの涙を見るのが嫌なのは嫌われる勇気がないからかもしれない」と、ハッとさせられました。

1冊の書籍に魅了され、さまざまな作品を手に取るように…

1冊の書籍に魅了され、さまざまな作品を手に取るように…

きっと、わたしは嫌われることが怖かったのでしょう。誰かを大切にしているつもりになっていただけで、自分自身を守っていたのかもしれません。

『嫌われる勇気』を読んで「誰かに貢献することは忘れずに、でも嫌われることを恐れて我慢するのはやめよう」と、考え方が変わりました。

そして、文章に影響を受けた経験から、さまざまなジャンルの書籍を読むようになりました。ライター活動を始めた頃はSEOや文章の書き方に関する書籍を多く読んでいましたが、いまはストーリー性のある書籍も手に取りページをめくります。そこには、心を元気にしてくれたり迷いを払ってくれたりする「文章」があるからです。

書籍に限らず、文章は偉大な力を持っています。『嫌われる勇気」』を手に取っていなければ、いつまでも他人に嫌われることを恐れたままだったでしょう。1冊の書籍が、人生を変えるきっかけになってくれたのです。いまはもう、誰かに嫌われるのを恐れて我慢するわたしはいません。

そして、Webライターの作るコンテンツも偉大な力を持っているはずです。それこそ、誰かの人生を変えるような。Web記事の文章に一喜一憂する読者もいるでしょう。1冊の書籍から勇気をもらったように、わたしも読者に大切な言葉を届けるライターとして活動し続けます。

もし、いま、何かに悩んでいたり迷っていたりするのであれば、書店や図書館へ足を運んでみてください。人生を変える文章に出会えるかもしれませんよ。

この記事を書いたライター

執筆者

上田美紀

「読者の心に響くコンテンツを届けたい」と、理念を持って活動している専業ライターです。Webライター検定3級。これまで執筆した記事は200本以上。ビジネス・マーケティング・ペットなど、さまざまなジャンルの記事を執筆しています。

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