ちょっとトラウマになった新米ライター時代
数社あったクライアントがサーッと引き上げて…あの頃は嫌な時代でしたね
「ちょ、ちょっと待った!それじゃーあの時代に逆戻りじゃないですか?やだー!!」
────兵藤さん、いきなりどうしました?!
ああスミマセン…もう今月で50になるロートルなもので、寝不足だと昼間からウトウトして、変な夢を見たかもしれません。
いや、嫌な夢でしたね…急に担当が変わって、こう言うんですよ。
「それでは今から、このテーマで何文字書くのにどのくらい時間でできるか、時間を計りますね~はいどうぞ!」
それで慌てて、メディアの編集長にチャット飛ばして、「お願いですから担当を変えてください!」って頼み込むんですが、いや夢というか、昔実際にあった話ですコレ、タイピングじゃなくてライティング依頼の実話。
────時間と文字数しか出てきませんが、内容とかそういう話が出ないとこに違和感ありますね。
そうなんですよ!昔はちょっとヒドイ時代があって、たまたま私が新米ライターとしてデビューした頃だから10年近く前ですかね?
内容の正確性は問わないので、とにかく記事を大量に書けと言うんです。
私は幸い、最初に某クラウドソーシングサービスでちょっと修行した時以外は、あまり変なクライアントさんに当たらなかったんですけど、「とにかく脇目も振らず、ひたすら文字を打ち込め」に近いライティングを依頼されたライターさんもいたらしいと。
────それじゃ内容もデタラメで、検索しても上位に来ないのでは?
私はSEOに関しては専門外で素人同然なんですけど、当時はGoogleもYahoo!も甘かったんでしょう、SEO対策だけで質の悪い記事がバンバン検索上位に出て、しかも間違ってちゃまずいジャンルだったものだから、社会問題になって大炎上ですよ。
私はどっちかというと、クライアントさんから好きなジャンルの記事を好き勝手に書かせていただいてたんで、量をこなすにしても寝る間も惜しんで没頭してた方ですが、大炎上した某社の場合はその質の悪い記事の量がハンパなくて、ずいぶん稼げはしたらしいですけどね。
自分がそれやれって言われたら、嫌だって断ったと思います。
────でもさっきの夢みたいな出来事が、実際に起こってしまった?
そーなんです!とあるクライアントさんから依頼を受けてた時、新しい担当者だってきた人が「今さら」なやり方を始めようとしまして。
あの大炎上で、いろんなメディアが記事の内容精査でも始めたのか、サーッと仕事の発注をやめまして、新規発注どころじゃなかったんでしょうね、おかげで実績の乏しい新米ライターなんてオマンマの食いあげでして、ものすごく心細い思いをしました。
それがトラウマになって、「あの時代がまた帰ってくるんじゃ…いや、自分の場合は今から始まるんじゃ?」って、叫び出しそうになりましたよ。
結局、当時のクライアントさんも考え直して、「量より質」を維持してくれたから、それ以上は無体な話にならず済んだのが、幸いでしたが。
「そんなのは個人のブログで書いて」と言い放った師匠
今でも「師匠」と仰ぐ担当氏から怒られてる頃に吸ってたゴールデンバット…あの頃はタバコも安かった!
────それなら兵藤さんは、割と最初の方から今まで、真っ当なライティングをされてたんですか?
それが、そうとも言い切れなくてですね。
主に自動車を専門にしたライターって方向性はすぐ決まったんですけど、何しろ全日本ジムカーナ選手権ってタイムアタックの競技に出るくらいモータースポーツに打ち込んでましたし。
2000年頃からホームページを作って、特定の分野ではちょっと有名でしたし、ちょっと天狗になってたとこはありました。
しかも初期のクライアントさんが私を甘やかしてくれたもんで、かなり好き勝手に書きたいことを書き散らかして、今見たら穴掘って入りたいような内容だったと思います。
────そこから変わるキッカケがあったってことですか?
ええ、さっき説明した「いい加減なサイトが社会問題になって大炎上の後、新米ライターがすっかり干されたヒドイ時代」の後、営業しまくってようやく拾ってくれたメディアで、担当さんにもうコテンパンにされまして。
それまでのクライアントさんは、自動車メディアの担当と言っても仕事でやってる感じでしたが、新しいクライアントの担当さんは、私とジャンルは違いましたがスポーツカーに乗って、サーキット走行なんかも積極的にやる方でした。
────それなら話が合って、仲良くできそうなもんですが。
とんでもない!
最終的には仲良くなって長い付き合いにはなったんですけど、お試し的なテストライティングが終わって最初くらいだったか、自分がレースに出た時の思い出話も織り込んだ、ちょっと面白おかしい系の記事を書いたつもりだったんです。
そうしたら、「兵藤さん!あなたは名の知れたレーサーじゃないんですから、こんな思い出話なんて誰が読みたいと思うんですか?こんなのは個人のブログにでも書いてください!」って、突っ返されたんですよ。
そんなの初めてだったんで、もう何が起きたかわからなくて。
────「洗礼」ってやつですかね…。
私としては、「俺は全日本選手権にだって出たんだゾ?!」なんてアタマにきましたけど、考えてみたら全日本って言っても底辺のクラスに3回出ただけで、5位入賞が最高記録です。
優勝経験もダイハツ車のワンメイクイベント(ダイハツチャレンジカップ)くらいでしたし、レースの経験はほとんどなくて、要するに偉そうな顔してアレコレ語れるほどの実績もなけりゃ、業界全体で見れば知名度ほぼゼロ、アリンコかミジンコかってくらいですよ。
それが名だたるレーサーや評論家の真似事をしてるんですから、ちょっとわかってる人からすると、「なんだコイツ」って思われて当然なんでしょう。
今まで俺がやってきたことは…と、頭を抱えましたね。
あなたが書くのは提灯記事じゃない!
「師匠」にガツンとやられ、顔色の悪い筆者だったが「愛」に目覚め?
────それで心を改めて、自動車ライター兵藤さんの今があると?
ウーン、改めるというか「三つ子の魂百まで」なんですかね、なかなか改まらなくて、その担当さんからはさんざん怒られました。
以前お世話になっていたクライアントさんからは、「兵藤さんの記事は、切り口が独特で面白い」なんて甘やかされて、有頂天になってただけなんですね。
実際は「他のライターが書かないことを書いてやろう」って、ヒネくれてただけなんですけど、それで担当さんからまた怒られます。
怒られますけど私も慣れてきて、
「誰でも書けるようなつまんない内容ばかり書かせるなんて、御社はそんなに提灯記事が好きなんですか!」
と、やり返しちゃったんですが、まあ、今考えると素人丸出しの、恥ずかしい暴言でしたね、意見ですらありません。
────提灯記事ってアレですか、メディアがメーカーとかをヨイショするような
そうそう、「どうせメーカーから金もらって顔色をうかがい、メーカーを喜ばせるような記事だけ書かせたいんだろう」なんて思い込んでたんです。
そしたら担当さん、なんて言ったと思います?
「何が提灯記事ですか!メーカーじゃなくてユーザーが怒るような記事書いてどうするんですか!」
アチャー…って思いました。
確かにそれまでの私は、自分が楽しいとか、自分が信じてる、思い込んでる話ばかり書いてて、読み手がどう思うかなんて考えてません。
だから特定のメーカーや車種を鼻で笑うような内容や、一言もの申す!みたいなことを平気で書いてましたが、それじゃ面白くないってユーザーも確かにいるわけなんです。
内容がどうこうというより、書き方ひとつで変わってくることを知らなくて、別に物申すのは構わないけど、最後には「健闘を祈ります」とか、激励の言葉のひとつも入れてフォローするのも必要だと、初めて知りました。
────いいお師匠さんに出会ったようですね。
そう、師匠…あの担当さんはまさに「師匠」でしたね…今でも足を向けては寝られません。
それからは、ちょっとチクリと刺すような内容でも、最後は「うまくいかなかったかもしれないが、時代にとっては大きな功績を残した」とかなんとか、イイ感じでシメるようにしました。
でも、そのためには記事で取り上げる車の事を好きにならなきゃいけませんし、好きになるためには知らなきゃなりません。
だから依頼されたテーマに取り掛かった瞬間から、取り上げる車の大ファンになったつもりで、ものすごい興味を持って調べていくんですが、そうして初めて見えてくる事実もありますし、ああファンはこういうところが好きなんだなって気持ちもわかるようになります。
「ああ、提灯記事なんてものはなかったんだな」
って思いましたね…メーカーじゃなく、ユーザーのために書くならば、そういう結論になりました。
だから数億円の最新ハイパーカーから、時代の空気を反映したさまざまなカスタムカー、軽トラみたいな実用車、果ては建機のユンボとかまで、「好きになれば何でも書ける」ライターになれたと思います。
まあ、自動車だから何でも好きになれたのであって、これが家電製品とか別なジャンルだったら、そこまでの心境になれたかはわかりませんが。
────質が求められた時代になったからこそ、そういう師匠に会えたのかもしれませんね
「とにかく記事の数こなしてナンボ」って時代だったら、確かにそういう話にならなかったかもしれません。
そもそも干されもしないから、師匠にも出会わず、カンチガイしたまま稼ぎ続けたかもしれず、それはそれでお金には困らなくて楽ですが、成長もしなかったでしょう。
これからライターを目指す皆さん、そして新米ライターとしてがんばり始めた皆さんに一言贈らせていただきます。
「自分が書こうとする対象を好きになって、できれば愛してください。批判するのも称賛するのも、まずは愛情を持って接してこそです。たとえその場限りの愛だとしても」
────「その場限りの愛」とか言ってるから、50になっても結婚できないのでは?
あ、やっぱりそう思います?(笑)
この記事を書いたライター
兵藤忠彦
失われた10年?30年?まあボチボチ気楽に生きましょうや!という1974年生まれの専業ライター。自動車関連が専門の中では珍しいダイハツ派で、過去に全日本ジムカーナへスポット参戦時はストーリアX4やリーザTR-ZZ、現在もソニカRSリミテッドが愛...