初めてのインタビューは頭が真っ白だった。

インタビュー

ものすごく当たり前のことですが、誰だって初めてのインタビューは初体験なんです。

「インタビューライターに興味があるけど、経験したことがないからできない」という話を耳にすることがありますが、恐れることはありません。百戦錬磨のインタビューライターだって、1回目は誰でも初めてなのですから。でも、めちゃくちゃ緊張することは確かです。

私が原稿を書くために人の話を聞いた初体験は、銀座のカフェの取材でした。インタビューよりはライトな感じでしたね。旅行雑誌の編集プロダクションに入社して、3か月目くらいだったと思います。

「キミ、来週取材ね!」と当たり前のように言われました。

「え!しゅ、しゅざい!!私が?!」と舞い上がり、挙動不審になった記憶があります。私は取材をしたことも見たこともないので、1回だけ先輩の取材の様子を見学したいと懇願。

しかし、「なんとかなるでしょ」と受け入れられず。上司がカメラマンとして同行するので、フォローできると思ったのでしょう…。

初取材では背中に冷や汗をかきながら、カフェの店員さんに話を伺いました。情報誌の取材なので、じっくり深く聞くというよりは、限られた時間の中で、カフェの歴史やおすすめメニューの特長について、カフェの魅力を伝えるための情報を引き出す必要があります

私はその時30代半ばだったので、さも取材経験者のように涼しい顔で取材を行いましたが、「これでいいのか〜!?この内容で原稿が書けるのか〜!?」と終始緊張しているばかりで40分程度の取材は終わってしまいました。

頭が真っ白だったのです。

良い原稿が書きたい。だけではダメなのね。

インタビュー

記念すべき初取材だったのに、今私は取材に応じてくださった方が男性だったのか、女性だったのか、その店のどんな立場の方だったのかさえ覚えていません。

きちんと原稿を書くために、ちゃんと話を聞かなきゃ…!と自分に精一杯だったんですね。相手にほとんど気持ちが向いてない状態でした。後で原稿を書こうと取材内容を振り返った時、私が聞いたことはWebサイトやお店のパンフレットに書いてあることと同じだな…と落ち込みました。


このインタビューや取材する時の「自分に精一杯状態」から脱却するのには時間がかかりました

編集プロダクション時代に何百件と取材するなかで、相手の話を聞くときは、相手に、相手の話にもっと集中する原稿を書くことだけに意識を向けない。そんな気持ちで臨むようになりました。

相手に向き合って話を聞くとは

相手に向き合って話を聞くとは

相手にもっと集中する、すなわち、相手の話をいかによく聞くのか、話を引き出すのか、の試行錯誤が始まりました。

印象的なインタビューから例を挙げます。

わからない時は、わからない、とくらいつく

大前提として、インタビュー対象者については事前に調べておくことが大切です。

でも、わからないことがあるからこそインタビューして詳しく聞こうっていうんですから、相手の話の中でわからないことは多々あります。その時にはひるまず「わからないので教えてほしい」とくらいつきます。

これは、離島の産業を紹介する冊子の仕事で、島の漁師さんや農家さんにインタビューする経験で実感したことです。

漁師さんや農家さんは自分の仕事を語る経験がない方、寡黙な方もいらっしゃいます。また、私は漁業や農業に詳しい訳ではないので、無知丸出しなことを聞いてしまうんじゃないかと不安がいっぱいでした。

離島で観賞用の植物を育てている農家さんのインタビューをビニールハウスで行うことになりました。いわゆる「頑固ジジイ」で(愛を込めて呼ばせていただきますが)、座ってもくれず「インタビュー?なんだ?」という感じでした。

そこで、ビニールハウスを一緒に歩き回りながら「いつから農業を始めていらっしゃるんですか?」など、おずおずとお話を聞いていたのですが、育てている植物の話になったとき

「そんなこともわからんのか?」

と結構強く言われたんですね。その時に弟子モード(?)スイッチが入って「はい!わかりません!どうしてですか、なんでこうなるんですか!」と勢いよく質問攻めにしました。

そうしますと、農家さんは怒ってるわけじゃないけど終始怒っている感じで、でも活き活きと植物について話してくださったのです。

ビニールハウスを歩きながら、道具や出荷の様子なども実際に見せてくださり、ぶっきらぼうながらもきちんと現場の様子を見せてくだり、伝えてようとしてくださる姿に感激しました。

そんな経験から、わからない時はわからない、教えてほしいとグッと踏み込んで聞くことを大切にしています。

時に礼儀正しく、時にフランクに。

編集プロダクションの後に転職した広告制作会社の採用条件は「大学パンフレット制作のコピーライター、学生やOGのインタビュー記事が執筆できる方」でした。

というわけで、私の主な仕事は現役大学生と、社会人2〜3年目ぐらいの卒業生にインタビューし、原稿を書く仕事になりました。

インタビューで特に気を遣っていたのは、場づくりです。インタビューされる側になることは、緊張することだと思います。

大学パンフレットは、志願者数を増やすための大事な広報ツールですから、インタビュー現場には、教授、大学の広報担当者、代理店担当者、広告制作会社のディレクター、カメラマンなど大人がいっぱい。大学生や卒業生がカチコチになっていることも少なくありません。

そんな時はリラックスして話せるように、フランクに話します。

「今回話を聞く目的は、〇〇大学を検討している高校生に、どんな大学生活を送っているのかを伝えたいためなので、私が女子高校生だと思ってお話ししてくださいね!(無理があるケド)」

大学生と2人きりで話を聞ける時は「え〜そうなんだ〜!」「それはヤバいね!」なんて言いながら、話を盛り上げる時もあります。

これは、相手が若いかどうかではなく、話しやすい雰囲気づくりのためであって、インタビューの場の雰囲気や、相手のテンションに合わせることが大事だと思っています。

礼儀正しく真面目な雰囲気で話してくれる方には、礼儀正しく。わちゃわちゃと話したい雰囲気の時はフランクに。

相手が大学生であっても、企業の社長であっても、先入観にとらわれず、フラットな気持ちでインタビューに臨むようにしています。

なんで?なんで?どうして?…そして待つ。

インタビューは相手に向き合う、具体的にはいつも「なんで?なんで?どうして?」の気持ちで相手に向き合っています。

インタビュー実施前に、インタビュイー(インタビューされる人)に質問シートを渡し、回答をもとにインタビューを進める場合があります。

「先に回答してもらったら、インタビューで聞くことがなくなっちゃうね」なんて言われたこともありますが、それは違います。

回答には、かなり大雑把なことしか書いていない場合が多いのです。例えば、企業インタビュー前に以下の質問と回答があったとします。

Q.〇〇プロジェクトを行うにあたって大変だったことはなんですか?

A.〇〇プロジェクトは、計画当初は社内で反対意見も多く、説得するのが大変でした。それでも効率化するために〇〇を導入し、工期を短縮してスケジュールを極力短縮するなどによって説得を重ね、全社の協力を得ることができました。

具体的に詳しく書いてあるようにも思えますが、ここで、私はインタビュー当日こんなことを聞きたいなと思います。

・具体的にはどのような反対意見が多かったですか?
・反対意見が多いとのことですが割合的にはどのぐらいに感じていましたか?
・反対意見に対してあなたはどのように感じていましたか?
・説得は、一人で行ったのですか?
・説得にどのぐらいの時間がかかりましたか?
・工期を短縮することがなぜ説得につながったのでしょうか?
・説得できたときはどんな風に感じましたか?
・〇〇プロジェクトにおいて、この反対意見が活かされている部分はありますか?

などなど…「なんでだろう?どう感じていたんだろう?もっと具体的に聞きたい!」と聞きたいことがあふれ出てくるわけです。それを事前に準備できるのが、事前質問シートのいいところですね!

さて、インタビュイーにとっては、すぐに答えることができない質問もあります。「うーん…」と沈黙が流れる時もあります。そんな時はどうしましょうか?

待ちます。ニコニコして待ちます。

私もかつては、沈黙は耐えられない派で、相手が黙ると追い質問をしてさらに相手を追い込んでしまうことがありました。

でも、逆の立場で考えてみたら、話す前に自分の頭で整理する時間は必要ですよね。相手が答えを考えている時は待つ。困惑している様子なら、しばらく経ってから別の角度で質問してみます。

インタビューの相手をよーく見て、「なんで?なんで?どうして?」とちょっとメンヘラ彼女っぽいマインドでいるようにしています(怖)。

インタビューライティングは「三方よし」を目指す!

インタビューライティングは「三方よし」を目指す!

インタビューする時のマインドについて語ってみましたが、当然「いい感じにインタビューできた、は〜よかった」では終わらず、このあと原稿を書くわけです。

インタビューする時も、その後に原稿を書く時も、私の頭の中には3人います。あ、私も含めたら4人か(暑くておかしくなったわけではありません)。

・読者:読者は取材記事を通して何を知りたいと思うか

・依頼者:依頼者はその取材相手をなぜ選んだのか、何を読者に伝えたいのか

・インタビュイー:インタビューで語る中で伝えたいことは何か

この3者を常に意識しながら、インタビュー前の準備、インタビュー、そして原稿執筆に臨むようにしています。

読者や依頼者のことばかり意識をすると、予定調和な記事になってしまうことがあります。過去には、こんな話を書きたいからと、インタビュイーに誘導的な質問をしてしまったりしたこともありました。

また、インタビュイーの話がとても面白かったとしても、読者や依頼者を置いてきぼりにした記事、依頼者の意図から外れた記事は、インタビュー記事として成り立ってはいないのです。

ライターである私は「伝える者」として、読者のため、依頼者のため、インタビュイーのために書いて伝える「3方よし」のインタビューライティングを目指しています

外部のメディア記事ではありますが、インタビューライターいしかわゆきさんの記事でも同じ「三方よし」をおっしゃっていたので強く共感しました、ここに紹介させていただきますね!

「書くという生存戦略。「話が苦手なインタビューライター」に仕事が集まる理由。(STORY AGE)

この「三方よし」を意識するようになってから、インタビューライティングの難しさの中にも、面白さを見出せるようになりました。

インタビューライティングをする時に、頭の中の3者に自分を常にスイッチさせてみる、そんな感覚で取り組むことをこれからも続けていきたいと思います。

この記事を書いたライター

執筆者

坂本 緑

旅行ガイドブックの編集・ライター、コピーライターを経て、フリーライターに。現在は、Webメディアの編集・記事執筆のほか、コピーライターとしてWeb・紙媒体問わず広告制作に携わる。一番好きなのは出会いがある取材とインタビュー。Mojiギル...

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