Before:哲学的な表現大好き人間

Before:哲学的な表現大好き人間

まず、職業病にかかる前の私について紹介しておきます。他の記事でもちょこちょこ触れている通り、特に大学生くらいの私は、キャンパスの広場の木にもたれかかって本を読むくらい、本が好きで、それ以上にそんな自分が大好きな人間でした…。

そして、自分を賢く見せたいがために、小難しい本が大好きでした。村上春樹にアルベール・カミュ、カフカに夢野久作などなど、果てはヒトラーの『我が闘争』にニーチェまで読んでいました。とにかく難解な表現が好きで、こういうことだろう、と想像しながら読み進めるのが楽しくて楽しくてしょうがなかったことを覚えています。

本だけではなく、映画だって解釈を観客に委ねるようなミニシアター系の映画が好きだったし、音楽だって詩的で抽象的な歌詞を書くようなアーティストを好んでいました。

実際問題、それまで触れたこともないような表現に数多く触れることができたし、言葉の意味を考えることで、さまざまな思考を巡らせ、頭を動かすことに親しむことができたと思っています。それが、ある意味では今のライターとしてのバックボーンになっているような気もしています。

After:5W1Hがハッキリした明瞭なもの大好き人間

After:5W1Hがハッキリした明瞭なもの大好き人間

では、そんなひねくれた人間が今どうなっているかというと、まるで間逆なものを愛するようになりました。

基本的にはシンプルで、誰にでもわかる表現で、明確な意図があるものが今では大好きです。

抽象度が高すぎるものを見ると、何を伝えたいのかがわかりにくく、なんとなく居心地の悪さを感じるようになってしまいました。

これは、どちらかというと抽象度の高いものが嫌いになったというよりは、文章を見る目が鍛えられたと言ったほうがいいかもしれません。実際、私の好きな作家たちは意味や意図をハッキリと持った上で、あえて抽象度の高い表現を行っていたり、少々難解であっても意味がわかれば首肯するしかない比喩を用いており、素晴らしい表現者だと今でも思っています。

受け入れられなくなったのは、伝えるべきものが伝わらないような作品です。たとえば、ひと言で伝えられるのに余分な装飾を加えた表現や、一文だけ見れば一見素晴らしい文章でも、コンテクスト(文脈)として意味を成していないような表現は受け入れられなくなりました。

恐らく人生経験を積んだことにより、未知のものが減ったことも原因のひとつであると思われますが、こうなってしまった理由はやはりライターの仕事だと思います。

なぜハッキリしたものが好きになるのか

では、なぜ、明瞭な表現を好むようになったのか。

その理由はライターという仕事の本質にあると思っています。ライターの仕事とは情報をまとめ、わかりやすく提供することにあります。これは記事はもちろん、キャッチコピーやセールスライティングでも同じことが言えるでしょう。つまり、意味が通じなければダメなのです。

ライティングは芸術などではなく、商業的に意味のある「仕事」です。売るため、人を集めるため、情報を伝えるため、などなど、そこには必ず目的があるのです。だから、耳障りはかっこいいけど何言ってるかわからない、では困るのです。

こういった目線で考えると、世の中にはコンテクストがわからない文章やコピーがあふれていたりします。そういったものを見るとなにを伝えたいのかが理解できず、イライラしてしまうのだと思います。

もちろん、わざと抽象度を高めた文章もあります。ただし、しっかり計算された文章はそれだけでは意味がわからなくても、画像と組み合わさることで意味が見えてきたり、意味がわからなくても狙っている意図は伝わってくるものです。

ライターである以上、意図したものがしっかりと伝わる文章を作っていきたいものです。

美しい表現も意味が伝わってなんぼがライター

以上が私が感じているライターの職業病です。

ややこしい表現が嫌いになった、という言い方になりましたが、私が文章に求めるのは、言葉の明瞭さというよりも意味の明瞭さです。意味が明瞭に伝わるのであれば、それがどんなシンプルな言葉でも、どれだけ複雑で長い言葉であってもどちらでも構いません。

ライターを志しているというのなら、きっと書きたいテイストや表現がひとつやふたつあるはずです。もちろん、その表現を使ってもよいのですが、使い所はしっかり見極めましょう。どんなに独創的な表現であっても、伝わらなければ意味がありません。見せ方よりも伝え方をしっかりと考えて文章を作っていきましょう。

この記事を書いたライター

執筆者

じょん

一児の父でアラフォーライター。
Web制作会社にてライターとしてのキャリアを積みながら、副業ライターとして活動中。得意分野はエンタメ系。興味のある分野では作成する文章にも地が出がち。座右の銘は「ライターは文化的雪かき」。鈍く光る職...

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